全国高校生法律討論大会のこれまで、現在、そしてこれから

全国高校生法律討論大会実行委員会の足跡を辿ります。

全国高校生法律討論大会実行委員会です。更新が遅くなり非常に申し訳ありませんでした。2021年を迎えて、これまで3年間実施してきた「全国高校生法律討論大会」の実践についてまとめて発信しようと考えました。

 

この大会は年々規模が大きくなり、3年間をかけて「法学を学んだことがない高校生が、まず最初に法学に触れる機会」を創出することに貢献できたのではないかと思います。数えたところ、過去3年でのべ180名の高校生が本プログラムに参加してきたことになります。一体私たちが何をしてきたのか、何を目指してきたのか、そしてこれからどうしていきたいのか。今回はそうした全国高校生法律討論大会実行委員会の総括的な報告記事となっています。

 

全国高校生法律討論大会実行委員会とは

全国高校生法律討論大会実行委員会は2018年の年始に、法教育に関心のある弁護士、ロースクール生、法学部生などが集って組織された法教育を目的とする任意団体です[注1]。集ったメンバーの特徴は法曹はもちろん、将来的に法曹を志望していたり、あるいは法学部での勉学に充足感を感じている学生で構成されています。創立メンバーとなっていたロースクール生は司法試験に合格され、法曹の道に羽ばたこうとしています。

  

そして何より構成メンバーの多くが大学生時代に、大学対抗の「法律討論」という競技に挑戦していたことがあります(全国大会も存在する競技であり、ぜひ高校生の皆さんは大学生になったら挑戦して頂きたいと思っています)。

  

確かに組織のメンバーは、法学部に入学したことに充足感を感じている人が多くを占めています。すなわち将来何らかの形で法学に関わる仕事に就く、あるいは研究に携わるというビジョンを持っています。

 

しかしながらメンバーの周辺にいる法学部生は、満足している方ばかりではありませんでした。法学部じゃなくて〇〇学部に行けばよかった、法学にあこがれてきたけど法学には向いていなかった・・という声も聞いてきました。その原因について実行委員会内で共通見解をまとめたところ「法学の学習は高校教育の延長線上にあらず、イメージを持てぬまま大学に入学することでミスマッチを起こしているのではないか」という仮説を立てました[注2]。

 

「高校教育の延長線上にない」とはどういうことでしょうか。

 

例えば理学や工学には理科や数学が対応することがイメージできます。文学に関しては現代文や古文が基礎になると考えられるでしょう。外国語学に関しては英語の学習を発展させたものだと想像がつきます。しかし法学に関しては対応する科目が高校教育には見当たりません。近しい領域としては「倫理・政治経済」がありますが、その学習も条文や判例などの暗記が多く、法学部に入学したあとの学習内容との激しい乖離があるのではないかと我々は問題意識を抱いていました。

 

では法学部で学ぶ内容とは何か。様々な意見や議論はあるとは思いますが、私たちなりにまとめた考えは「法律を”道具”として使えるようになるための学習」というものです。つまり法律(みなさんが想定しやすいのは条文や判例)を暗記するのではなく、法律を使って紛争を調停したり、自分(ないしは誰か)の身を守ったりする際に用いられる思考や技能を包括的に学べるのが法学部です。

 今回の大会では、皆さんに“法律問題を解く”ということを体験してもらいました。しかし、それは法律の知識を暗記してもらいたかったからではありません。これから幅広い分野で活躍する高校生の皆さんに、法律は“よくわからない怖いもの”ではなく、自分で使う“道具”だということを理解してもらいたかったのです。

 法律の勉強をしたことのない人の多くは、法律は“よくわからない怖いもの”であり、ただ自分のことを縛る嫌なものだといいます。

 しかし、入門講義でも強調した通り、法律は“ルール”です。そのため、法律の問題を考えるときは“ルール”(=規範)を示し、それがあてはまる状態か否かを考える(=あてはめ)という頭の使い方をします。この、法律が“ルール”であるということを正しく理解すると、法律はただ自分のことを縛るだけのものではなく、むしろ、自分たちが使う“道具”なのだ、という見方ができるはずです。

(法律討論大会を振り返って)
https://houritsuronshu2020.hatenablog.com/entry/2020/02/25/153221

 

そうした技能を磨く上では、法学の学習は「暗記」するだけで済むものではなく、明快な正解がない規範・価値問題に、法律を道具として扱いつつ数多くの証拠や論拠をもとに、論理的に判断を下さなければなりません。法学部には「リーガルマインド」という言葉にもあるように、こうした法学の特殊な問題に向き合う態度を身につけなければならないのです。そして法学への「不適応」を感じてしまう原因は、法律を”道具”として扱う能力とは誰もが簡単に身につけられるものではなく、学び手を選びうるような属人性があるからではないかと考えられるからです。

 

ところが高校時代の学習では、法学部で学ぶことによって獲得される専門性とは何か、その存在を知りえない状況にあります。そして十分に法学部で何を勉強できるのかイメージできないまま、曖昧な印象を持ちながら受験勉強を経て、法学部に進学せざるを得ないのです。また仮に「リーガルマインド」を知っていたとしても、概念だけを本で知ればわかるというものではなく、実際に個別的問題に取り組まなければ掴めないものでもあります。それは既存の法教育の内容ではなかなか補いきれなかった価値だと私たちは考えています。

 

第一回・第二回全国高校生法律討論大会

そこで全国高校生法律討論大会実行委員会は、高校生が法学部に入学する前段階として、あるいは法学部を志望するか悩む材料を提供するために、2018年に以上のような「やってみて法学をわかる」機会を提供するべく、新規の法教育プログラムを設立する流れとなりました。それが「全国高校生法律討論大会」でした。本大会は法学部進学を少し考えている高校生に、法学部入学後に取り組む「法を道具として扱う」学習を体験してもらうことで進路再考の機会を提供し、法学部へのミスマッチの防止を目的とした教育プログラムとなっています。

 

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2018年に開催された第一回大会と、2019年に開催された第二回大会は、どちらも「討論大会」形式です。法学に関心のある高校生が全国より関東に集結し、3日間をかけて法律のレクチャー、グループワーク、法律討論をこなしていきます。

 

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まず高校生が法科大学院生や法曹などを講師とした「法学レクチャー」を受け、その後はレクチャーで得た知見を使ってグループ分けのための予選問題に解答していきます。

 

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さらにその後はグループ対抗で本選問題に挑戦し、グループで議論しながら一つの結論にまとめた論文を書きます。最終的には書きあがった論文をグループの代表者が壇上で読み上げ、他のチームが質疑応答という形で議論を戦わせるというものでした。以下の写真は第二回大会の本選問題の一部です。

 

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第一回大会(憲法)、第二回大会(刑法・刑訴法)ともに白熱した議論が繰り広げられ、実施前の下馬評では「高校生には法律を使った議論は無理じゃないか」と各所で言われていたものの、それを覆すような白熱した討論を目の当たりにしてきました。

 

houritsuronshu2020.hatenablog.com

本大会を開催するにあたっては、数多くの関係各所の皆様のお力を拝借いたしました。理想的な会場、机・椅子を無償同然で提供いただきました。こうした皆さま方の協力により本大会は実現できました。

以上の二回の大会を受けての気づきは、この大会は「法学に触れる」ことを通じた学問への導入としてだけでなく、もっと高校生は高次の経験を望んでいるのではないかというものでした。

 

確かに以上の大会は「法学とはどういうものか」を知るには良い機会だったと考えられます。しかしながら参加者の中には、その導入だけでは飽き足らず、もっと日常的な法的問題を考えてみたいとか、世界的な政治・法律問題について考察してみたいなど、より「自分のテーマに向けて羽を伸ばす」ことに関心を持った参加者も多く見られました。もちろん第一回・第二回大会共にハードではありましたが、大会側がセッティングした題材をこなすことによる「法教育」に留まっていたことも事実でした。

 

そこで、高校生が自身で掘り下げた「法学研究」を発表する機会にも本大会は発展できないかと、実行委員会でも議論されました。具体的なモデルとしては学会形式での口頭発表や、ポスター発表などのセッションなどのモデルも検討されました。これらの議論の結実が2020年度に開催された誌面上の討論大会、「全国高校生法学論文集2020」になります。

 

全国高校生法学論文集2020 (有斐閣協賛)

2020年にはコロナ禍により、今まで実施されてきた対面での「法律討論大会」の実施が困難となりました。また任意団体の予算状況なども考えると、中止や団体の解散もやむを得ないと考えていた最中でしたが、緊急事態宣言により高校生が自宅学習を進めていることを踏まえ、自宅でもできる法律討論大会+法学研究の機会を創出できないかと実行委員内で検討が進められました。

 

そうした中で生まれたのは「全国高校生法学論文集2020」という誌面上の懸賞論文大会です。いわゆる懸賞論文コンテストは昔から数多く行われており、かつ受験数学においても難問に解答して誌面上でのコンテストがあることを踏まえ、それらの法学版ができないかというアイデアでした[注3]。

 

たとえステイホーム期間中でも「法学の難問に論文形式で回答し、かつ全国のライバルたちと順位を競い合う」というコンテストが開催されれば、各高校生が友人たちとZOOMを使って基本書や判例を読んで論文を制作するなどして、充実したステイホーム期間になるのではないかと考えました。また「論文集」という形式であれば、懸賞論文を発表できると同時に、高校生自身が法学や政治学に関連した自主研究の論文も発表できるのではないかとも考えました[注4]。そこで「懸賞論文部門」と「一般論文部門」の二部門を開設しました。

 

論文執筆期間はたっぷり三か月間を用意し、しかもその三か月でプレ登録してくれた参加者に対しては、「論文の書き方」や「研究の作法」などについても指導するメールマガジンが送られています。具体的な内容としては、論文の構成や体裁面、さらには参考文献や引用の方法などの基礎的な研究活動のルールについても解説されています。

 

また今大会に関しては本大会実行委員の弁護士の先生が、懸賞論文の考え方や論点を簡単に解説するポッドキャスト『高校生からの法学』も配信されました。こうしたメディアを準備することで、高校生が初めて法律論文を書くことへのサポート体制も充実させることができました。

 

anchor.fm

 

2月中に論文の募集を開始し、5月15日に投稿を締め切りました。結果的に全国より37もの論文(懸賞25本、一般12本)の投稿を受け付けました。論文集は以下の形式で一冊のWeb論集にまとめました。

drive.google.com



その後懸賞論文については実行委員会による審査期間があり、順位づけに腐心しながらも、以下の論文の投稿者に各賞を贈呈しました。

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1.最優秀論文賞(最高得点)
2.優秀論文賞(上位5論文)
園田紫子・稲垣葵 中央大学杉並高等学校
岸野恵理加 広尾学園高等学校
﨑田佳央 聖心女子学院高等科
3.部門賞(各部門最高得点)
〇刑事法学部門
橋本美咲 聖心女子学院高等科
〇民事法学部門
公法学部門
岸野恵理加 広尾学園高等学校
政治学部門
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高校生たちは「宿題的」に取り組んでいるのではなく、独自の視点で課題やテーマを掘り下げ、受賞者以外にも、あるいは一般論文にも秀逸な作品が揃っております。コロナ禍で学校が再開されず苦しい日々を送った高校生は多くいる中で、我々が貢献できたことは些細でしかありません。ただそのステイホーム期間中でも「法学に最初に触れる機会を提供する」という目的は達成されたのではないかと評価しています。
 

また嬉しい反応もありました。中央大学杉並高校で共著で受賞された園田さん・稲垣さんについては、中央大学杉並高校のホームページで受賞報告を掲載していただけました。『「法学五輪」等の呼び名を持つ、「全国高校生法学論文集2020」』と記載されているのは大変恐縮ですが、これからも法学の道に進むにしても、別の道に進むにしても、持ち前の興味関心の深さや論理的思考能力は今後の武器になるはずです。団体一同心より応援しています。

 

www.chusugi.jp

 

さらにこれまでの大会のOBなどからは、「全国高校生法律討論大会や法学論文集への参加が法学部に進学するきっかけになった」という声を頂きました。そして奇遇にも私たちが所属していた大学の法学部で、本大会の多くの参加者が学んでいます。しかしながら同時に我々にとって嬉しかったのは「この大会に参加したことで、私には法学部への進学は向いていない決断することができた」という声も頂けたことです。

 

結局この大会は、法学部に進学する人数を増やすために行っているわけではありません。あくまで大事なのは将来的な「学問へのミスマッチ」を防ぐことなのです。向いていないと感じながら法学部で学び続けることは想像しがたい辛さです。それは2・3年次に別大学に進学できる編入学試験が存在しており、かつ限られた枠に無数の学生が殺到している状況を鑑みると、法学部に限らず「ミスマッチ」の問題は根深い課題であるように思います。

 

 同じ大会に参加した人の中には、既に「自分は法学部に進学する」と心の中で決めていた人も多くいました。でも一日目が終了した時点で「なんか思っていたのと違う」と呟き、進路選択をもう一度考え直すという人がいたのも印象的でした。自分の場合は「法学=得体の知れないもの」だったので、見えない状態で入試に突入するよりは、ちゃんと法学とはどういう学問なのかを掴んだ状態で、東大推薦入試の面接試験に挑めたのも良かったです。結果的にこの大会を受けて「自分は法学部に行っても大丈夫だ」と確信に至ったのですが、そうした思考に至れたのも、法律討論大会で「法学の学問的特質」に触れて、四年間費やしても大丈夫かと判断できたからだと思います。


第二回参加者へのインタビューより

その意味では「自分にとって法学は無理だと感じた」というフィードバックは、ネガティブなことかもしれませんが、高校生本人目線でいえば将来的に「自分には法学は無理だ」と悩み、大学四年間の充実感が損なわれうる可能性を防げたという点では好ましいことだと思っています。あくまで重要なのは、個々人の自己実現的な進路選択に寄与することであると考えています。一方で本大会が「法学とはこうである」を分かってもらうのに十分な質のプログラムであるかについては、プレッシャーを感じながら議論を重ねてきました。それは第二回開催時に高校生に対して出題する問題が、一年がかりで作られたほどでした。

 

今後の話

(1)2021年度大会の開催は「未定」です

最後に今後の話です。2021年度の開催は現状においては未定です。過去3回にわたって本大会を1度開催するにあたっては多くの法律スタッフやオペレーションスタッフが関わっています。しかしながら過去3回の大会で主導的なオペレーションスタッフを担っていた者(実行委員長)が、一人は修士論文の執筆と就職活動に、もう一人は司法試験という事情に直面しています。こうした個人的な事情が足枷となって、なかなか本大会を今年も前向きに開催できるビジョンは立っていません。

 

また、第二回大会終了時より運営スタッフで議論されていたこととして、本大会は「社会実験」であり「実践研究」であるというものです。つまり、過去3回の大会を通して高校生のより良い進路選択に貢献するためにはどのような環境が高校内外に揃っていることが重要なのか、法学との「ミスマッチ」を起こさないためにはどのような経験をしているべきかなどについて、わたしたちが洞察・省察した内容を、一種の「研究成果」として発信することにより、問題意識の根底にある「学問のミスマッチ」を防ぐことに貢献できるのではないかという心境の変化が生まれました。そして現時点でやるべきなのは、新しい大会を開くことではなく、過去3年で行われたことを「知」として発信することではないかと考えています。今回の記事はその一環として執筆しています。

 

(2)学びを止めないためにできることはあると思っています。

上にも書いたように、今年の開催は未定です。このことは先輩の参加している姿を間近で見て「2021年度こそ私も参加したい」と思っていた高校生の期待を裏切る結果になってしまうかもしれません。そのことについては大変申し訳ないと思っています。

 

しかしながら「全国高校生法学論文集」という大会や組織の枠組みがなかったとしても、法学のテーマについて自分自身で探求してみたり、法学・政治学論文を書いてみるという経験は誰にも開かれているものだと考えています。なのでぜひとも、今年度の大会の開催に左右されず「学びを止めない」で欲しいと願っています。その上でもしも必要であれば、皆さんの執筆した論文についてアドバイスすることは(関与メンバーに余力があれば)継続的にしていきたいと考えています。

執筆した論文はこちらに送っていただければ、あるいは質問などがあればこちらに送っていただければ、研究や学習に向けたアドバイスができるかもしれません。

houritsutouron2020@gmail.com

 

(3)本格的なプログラムとして引き継いでくださるアクターを募集しています。

また私たちにとって「全国高校生法律討論大会」や「全国高校生法学論文集」は前述の通り「社会実験」として位置づけております。したがってこれらのプログラムを本格的な教育プログラムとする上では、大学、法科大学院、弁護士事務所、弁護士会、法学書籍を販売する出版社、司法試験予備校など、より大規模かつ高校生に充実した学びを提供しうるアクターに引き継ぐことができるならば、私たちとしても非常に嬉しいものです。そしてその際には弊団体が持ち合わせてきた過去3回で培った経験知などを共有できればと考えています。その際につきましても、メールアドレス(houritsutouron2020@gmail.com)に遠慮なくご相談いただければ幸いです。

 

今回の記事は以上になります。全国高校生法律討論大会実行委員会から、コロナ禍の中オンラインで実施された全国高校生法学論文集の実践までをとりまとめて報告させていただきました。何卒今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。

 

[注1]2018年の新年に生まれたアイデアであり、そこから急ピッチで大会の骨子や素案が作り上げられ、そこから一か月後には第一回大会の参加者募集が始まりました。
[注2]もちろん法学部のみで見られる特徴ではありません。しかしながら法学部の場合は「やりたいことではない」ではなく「向いていない」を理由としたミスマッチが多いのではないかと考えています。
[注3]実行委員の中には、懸賞論文や懸賞エッセイコンテストなどに作品を投稿することを行っている者がいた上に、数学の懸賞コンテストにも投稿した経験を持つ者も見られた。

[注4]「論文誌」とは一般的には査読付き論文誌(ジャーナル)を指すものといえるが、本誌はあくまで無査読で、投稿すれば誰でも掲載することができるものである点、権威性がある論文誌ではないことには承知されたい。しかし自分の論文が掲載がされることで達成感を味わうことができる。コロナ期に部活や体育祭、文化祭など「達成感」を味わう機会が奪われた高校生に、いかなる形式であれば達成感を味わってもらえるか検討に検討を重ねてこのスタイルとなった。

【第二回全国高校生法律討論大会】開催報告・出題された問題・講評

本記事では2019年4月に開催した『第二回法学五輪・全国高校生法律討論大会』を振り返ります。第二回大会は2019年4月28日にはじまり、平成最後の日である4月30日に閉幕しました。この三日間、全国から集った高校生45名が『刑法・刑事訴訟法』の事例問題に取り組み、白熱した討論を繰り広げました。本報告書では第二回大会の三日間で何が行われたのかを振り返ります。

 

1日目:刑法と刑訴の基礎を理解する一日                            
①刑法入門講義
②刑法論述予選会
刑事訴訟法入門講義

①第二回全国高校生法律討論大会は法科大学院生による刑法入門講義で幕を開けました。題材こそはそれこそ大学一・二年の刑法(財産犯)そのものでありますが、しかし高校生にも分かりやすいように講義が行われました。法的三段論法のような法学的な思考方法を「窃盗罪と占有離脱物横領罪の区別」、さらには「詐欺罪の構成要件妥当性」などに関する具体的な事例問題を通じて体験してもらいました。

画像に含まれている可能性があるもの:1人以上

②入門講義を終えてすぐさま、高校生らは刑法の事例問題への解答(予選)に取り組みます。予選問題は詐欺未遂であり、弁護士のふりをして金をだまし取ろうとした詐欺グループが、警察に指示を受けた被害者の「だまされたふり」が功を奏して逮捕されることとなったという事件でした。予選問題は、事例を読んだ上で、詐欺グループの一人である甲に発生する刑法典上の犯罪すべてについて犯罪の成立要件を論じなさいというものです。制限時間は75分。刑法入門講義のレジュメと六法及び、六法を持ってない方は刑法条文集を参照可能としました。

画像に含まれている可能性があるもの:1人以上、座ってる(複数の人)、テーブル、室内

③入門講義の後、休憩を挟んで、本大会のもう一つの題材である刑事訴訟法の講義が行われました。裁判でどのように「有罪」を認定しているのかというトピックにはじまり、裁判で用いることができる「証拠」とはどのようなものか、捜査を規律するルールはどのようなものか、及び捜査におけるルール違反が裁判で用いる「証拠」にどのような影響を与えるかについて説明がされました。

 

 

2日目:論旨制作のグループワーク
①予選点数によるグループ振り分け

②本戦問題

③論旨制作グループワーク―中間審査―

④論旨制作グループワーク

①1日目に行われた予選点数を踏まえてグループ(A~F)振り分けが行われました。予選点数の上位六人がグループA~Fの論者(リーダー)となり、三日目で行われる本戦ではチームを代表して論壇に立つことになります。最高得点は85点であり、上位二名が予選優秀賞として表彰されました。

    

②本戦問題は前日の刑事訴訟法講義の前に配られておりましたが、二日目のグループワークよりチームで問題を検討することになります。本戦の問題は予選の詐欺未遂事件における「乙」にフォーカスを当てています。弁護士(A)と乙の会話の中で、この事件の捜査において、警察は「違法であるとわかっていてGPSを用いた捜査を行っていた」という疑いが浮上します。そこで参加者高校生は『GPS捜査に関連する証拠を裁判で用いることができるのか』ということを念頭に置き、弁護士(A)として、乙の無罪獲得に向けた10分間立論するにあたっての「論旨」をつくることが求められます。

 

③いよいよチームで「論旨」の製作に取り掛かります。本戦は午前10時より開始されますが、論旨制作の過程の中で、正午締切の「中間課題」が設定されていました。中間課題の内容こそ「証拠開示命令申出書」の製作です。其々のチームで4つの検察側の証拠リストのうち2つの開示を求めることができます。これらの証拠の中から、どの証拠を用いれば有利になるかを考え、選択しなければなりません。しかも証拠を獲得するためには「証拠開示命令申出書」を製作し、さらに裁判所を模した大会事務局を納得させなければなりません。申出書の内容次第では、大会事務局から「弁護人の申し出を却下する」という判断が下りる可能性があるので、より説得的に「証拠開示命令申出書」を製作する必要がありました。開示を求めることができた証拠は以下の通りです。

    

<開示を求めることができる証拠一覧>

[A]GPS 機材の機種名,外観,性能等が書かれた捜査報告書

[B]警察が取得した GPS 位置情報の時刻と位置情報の一覧

[C]GPS 機材を設置したときの様子(周辺風景)を写真撮影した報告書

[D]追尾していた担当捜査官の捜査メモが書かれたノート

  

④中間課題の結果、全チームが二つの証拠ともに開示することに成功し、有利な証拠を持った状態で論旨製作に取り組むことになりました。論旨(スピーチ原稿)の大会本部への提出締め切りは17時00分であり、提出まであと5時間を切っています。論旨制作のスパートがかかります。また実行委員会のメンター陣(法学部生・法科大学院生)へ相談をすることも可能でしたが、メンター陣の介入は「発想のヒント」を少しだけ提供するだけに留められました。結果的に高校生のあらゆる思索や創意工夫の詰まった「論旨」が17時に揃っていました。

 

 

3日目:討論会本戦

①全国高校生法律討論大会本戦

②弁護士・法科大学院生によるトークイベント

 

①3日目のメインイベントは、全国高校生法律討論大会の本戦です。昨日17時に提出された論旨をチームを代表した論者が読み上げ、その内容について他チームから質問を行うことができます。論理の穴を突いた質問や、本質的な質問、枝葉の質問など多くの質問が飛び交い、まるで大学生の法律討論会さながらの活気に溢れていました。論者による立論は「立論点・質疑応答点」として集計され、さらに他チームによる質問も「質問点」として集計されます。それぞれ点数の高かった方に「立論賞」と「質問賞」が渡されました。さらに「立論点・質疑応答点」と「質問点」の合計点が高かったチームに「総合賞」が授与されました。

    

②討論会の最後に行われるのは、毎年恒例の弁護士や法科大学院生によるトークイベント(パネルディスカッション)です。今回の討論会の出題趣旨や、高校生に考えてほしかった刑事法の題材を踏まえながら三日間の振り返りが行われました。さらに法学部ではどのような勉強を行うのか、さらにはロースクール生や法学部生が「なぜ法学部に進んだのか」というキャリア選択についても話がされました。最終的には1時間ほど高校生と法学部生・法科大学院生などの談話会が行われ、高校生のキャリア相談や個人的な質問に法学部生・法科大学院生が応じる場面も見られました。

 

今回の大会で出題された問題は、実行委員会が一年ほどの時間をかけて製作したものです。実は第一回大会(憲法)の時から、今回の問題の製作は始まっていました。それから一年経過したところ、今までかつてないほどに刑事法や司法への注目が集まっている最中に本大会を開催することになりました。そうしたタイムリーなタイミングで高校生に「刑事法とはどういうものなのか」という問いと学習機会を供給することができた点においては意義のある大会であったと捉えています。

   

また今回の大会の主催にあたり、参加した全ての高校生が「法学部」への進学を希望しているわけではありません。しかし、もしも法学部に進学しなかったとしても、現在日本で生活している以上、日本の法律への理解を深めることは大学に進学するか、どの学部に進学するかを問わずして重要なことであることは言うまでもありません。今回たった三日間の期間で「法学」の知識習得から論述、さらには討論にまで挑みましたが、この濃密な三日間をきっかけに、参加した高校生の法学的関心の向上はもちろんですが、自分ならではの興味・関心に向けた探究に繋がり、進学先が法学部であってもなくとも、自信を持てる進路選択に繋がることを期待しております。

 

 

第二回全国高校生法律討論大会 予選論述試験問題

刑  法

 1   甲(28歳・男性)と乙(46歳・男性)は、夫が逮捕されたと思わせた主婦から金をだましとろうと考え、乙が最初に電話をかける警察官役、甲が現金を受け取る弁護士役を演じることにした。

2 平成31年2月24日、午前10時30分頃、乙は自宅から被害者V(31歳・主婦)の自宅(東京都江東区)に電話をかけ、「警察です。今朝、旦那さんが痴漢で捕まって現在取り調べ中です。本人は当番弁護士の希望があったからあとで当番弁護士から連絡があると思います。」と話した。なお、Vはすぐに動揺して夫の携帯電話に電話をかけたが、Vは夫の日中業務中のため私用の電話にはでないようにしているため、Vからの電話に気付かなかった。

3 甲は、乙の電話の10分後にVに電話をかけ、「東京弁護士会に所属する山田浩一です。弁護士会の当番弁護制度で連絡を受けました。本日逮捕なので、48時間以内に被害者に謝罪をして示談をまとめないと最大20日の勾留になってしまいます。」と話した。Vが「それでは夫が解雇になってしまいます。どうにか示談にまとめる方法はないのでしょうか。」と言うと、甲は「それでは私がこれからすぐに自宅に向かいますので、Vさんはすぐ近くのATMに行って現金300万円を準備してください。」と話した。

4 Vは慌てて近所の銀行に向かったところ、動揺してATMの操作を誤り、とまどっているところにたまたま声をかけた銀行員Wから、「最近そういう手口の特殊詐欺がはやっているので、よければ警察に相談してみましょう。」と言われ、銀行員Wの指示に従ったところ、Vの夫が警察署に逮捕された事実はないこと、および、最近区内で似たような手口の詐欺が複数発生しており、できれば「だまされたふり」をして犯人逮捕に協力して欲しいと言われたため、警察の指示に従うことにした。

5 同日午後4時20分頃、V宅に車で到着した甲は、スーツに弁護士バッジを模造したバッジを着けた服装で「先ほどお電話した弁護士の山田です。」と名乗り、「山田法律事務所 弁護士 山田浩一」と記載された名刺を渡した。なお、山田浩一というのは東京弁護士会に実際に所属する(と本問では仮定する)弁護士の氏名を甲が無断で借用し名刺を作成したものである。

6 Vはあらかじめ警察官の指示どおり、自宅内まで甲を招き入れ、警察官に渡された偽札の300万円の入った封筒を「これが銀行でおろしてきた300万円です。」と述べて甲に手渡した。甲はその封筒を受け取ると、「必ず今日には旦那さんは出られるようにします。」と述べて、V宅を出て車でその場を離れた。

7  その後、甲と乙はいずれも逮捕された。

 

<予選論述問題>

事例をよみ、甲に成立し得る刑法典法の犯罪すべてについて、根拠条文をあげた上で、それぞれの犯罪成立要件を検討しなさい。(乙については述べる必要はない)

 

 

第二回全国高校生法律討論大会 本戦問題

刑  法・刑事訴訟法

本戦の問題文は,予選と連続する一連の事件という扱いである。また本問題文の他にも実況見分調書や甲と乙の通信記録が記録された携帯電話機解析結果報告書、供述調書、論告、判例などを配布した。

 

<乙の国選弁護人Aとの接見室での会話>

平成31年3月28日(初回接見)

A:はじめまして、高校法律事務所のAです。

乙:先生、俺刑務所行きなんですかね。

A:今はまだ何とも言えませんね、とにかく何があったか順番に教えて下さい。

乙:ちょうど1年前、お金に困っていたところ、友人の甲に会ったとき、「いい金儲けができる仕事があるからで協力してくれないか」と声をかけられたので、甲に協力することにしたんです。(予選問題の事件概要について説明する)

A:それはなかなかよく考えられた手口ですね。逮捕されたのは今回がはじめてですか。

乙:9年ほど前に当時行り始めた「オレオレ詐欺」をやって執行猶予になったことがあります。それで

先生、1つわからないことがあって。

A:なんでしょう?

乙:今回どうやら甲がVさんの家にいったときにVさんが警察にだまされたふりをしてくれと頼まれて、それで甲が俺のマンションに来たときに俺のマンションが警察にばれたらしいんですよ。

A:え、それって甲さんの車を警察に尾行されたってことですか?

乙:いや、さすがに江東区のVさんの家から渋谷区の俺のマンションまで車で尾行するのは警察でも無理じゃないですか。実は、甲がVさんの家に上がっている間に、甲の車の底面に警察がGPS発信器を仕掛けてたんじゃないかって思うんですよね。逮捕されて俺のマンションから出たとき、警察官たちが甲の車のうしろにしゃがみこんで何かスマホくらいの大きさの物を外してたので。警察ってそんなことしていいんですか?

A:令状のないGPS捜査については最近最高裁判例も出たので、違法だとわかっていて警察がGPS捜査を行ったならそれは問題ですね。警察官からは、GPSで追尾していたということを聞きましたか。

乙:直接は聞いていないです。聞いてもはぐらかされて答えてくれなくて。俺も取り調べてでは「何も知らない」ってしらばっくれてるんで。

A:わかりました。もし令状のないGPS捜査をやっていたのなら、違法収集証拠排除法則から無罪を主張できるかもしれませんから、検討してみます。乙さんは、取り調べではそのまま最後まで否認を貫いて下さい。供述調書にも一切署名押印はしないでください。完全黙秘出来ますか?

乙:わかりました。先生の言う通りにします。

A:とにかくGPS捜査の違法性については、まずはGPS情報の取得をどのくらいの期間・回数やったのかを把握しておきたいですね。もしGPS捜査をしなければ乙さんのマンションにたどり着くことができなかったのだとすると、それで得られた証拠を排除して無罪の主張ができるかもしれませんから、証拠開示手続で可能な範囲で証拠を出させるようにやってみます。

乙:よろしくお願いします。                  

その後、乙は、本件予選に記載された事実によって甲とともに起訴された。

 

<資料:起訴状>

弁護人Aが公判前に検察官に本件でGPS捜査を行ったかについて電話で問い合わせたところ、検察官は、担当警察官が令状なしで甲の車にGPS発信器をつけていたことを口頭では認めたが、それに関する証拠を任意に提出する予定はないとのことであった。

<時系列の流れ>

平成31年2月24日   本件発生

平成31年3月24日   甲・乙逮捕

平成31年3月25日   身柄を検察送致

平成31年3月26日   勾留質問・勾留決定(10日間)

平成31年4月5日    起訴

平成31年4月18日   第1回公判・証拠調べ

平成31年4月30日   検察官論告求刑・最終弁論

 

<中間課題>
①あなたのチームが乙の弁護人Aなら、乙を無罪に導くために、弁護人としてどのような検察官手持ち証拠の開示を請求すべきか。証拠開示を申し出るべきと考える証拠を以下の中から具体的に2つだけ選びなさい。

[A] GPS機材の機種名、外観、性能などが書かれた捜査報告書

[B] 警察が所得したGPS位置情報の時刻と位置情報の一覧

[C] GPS機材を設置した時の様子(周辺風景)を写真撮影した報告書

[D] 追尾していた担当捜査官の捜査メモが書かれたノート

 

②  申出の理由(その証拠の存在、必要性、弊害がないこと)について、別紙の「証拠開示命令申出書」を完成させなさい(ワープロ、手書きいずれも可)にして大会事務局あてに4月29日正午までに提出しなさい。

③    中間課題の提出内容に応じて、最終課題のヒントとなる証拠開示が得られる可能性がある(申出書の内容次第では裁判所から「弁護人の申出を却下する」との判断となる可能性もある)。

 

<最終課題>

 あなたのチームが乙弁護士のAであったとして、弁護人の弁護要旨(※最終弁論のスピーチ要旨)を作成し、それについての口頭で10分間以内の最終弁論スピーチを行いなさい。

 ・事例に即して、具体的に論じること。

 ・中間課題で入手できた証拠を活用すること。
 ・弁論要旨の提出締切:2日目(4月29日)午後4時59分
 ・所定の書式(ワード形式)をダウンロードして使用しなさい。

 

審査員講評

弁護士 新田真之介(出題者) 
第二回全国高校生法律討論大会評

1 今回の出題について

第二回全国高校生法律討論大会に参加された高校生の皆さん,お疲れ様でした。まずは三日間このハードな法律討論の課題に挑戦した皆さんのチャレンジ精神を称えたいと思います。

 今回の問題は,昨今ニュースなどでもよく耳にする「特殊詐欺(オレオレ詐欺振り込め詐欺などと呼ばれていましたが,最近では手口はさらに巧妙化,複雑化してこのように呼ばれています)」と,昨年話題となったGPS捜査についての最高裁判決を応用した事例を出題しました。さらに,今年は中間審査として,証拠開示手続という弁護人の証拠収集活動を疑似体験できる要素を加え,RPG的な側面(本選に望むのに,チームごとに手持ち証拠がちがう!)を取り入れてさらにゲーム性を高めてみました。いかがでしたでしょうか。

 問題の質としては,法学部生・法科大学院生でも十分に悩む難易度の高い出題であったと思いますが,皆さんは果敢にチームで考え,議論し,時間制限内に弁論論旨(弁護側の最終弁論スピーチの原稿)を完成させていました。第一回大会の際に,「高校生でもチームで協力すればここまで議論が深まるのか」と驚いたのを覚えていますが,今回はさらに実務的な課題に対しても全国から参加してくれた高校生は十分闘うことができたことが,非常に嬉しく思いました。

 

2 討論会(本選)について

 本選の問題は,弁護側から公訴事実についての最終弁論を行うというものでした。ですので,最終的なゴールである「被告人は無罪である。」という結論を導くための説得的な論証を行うものです。
 ですから,「本件GPS捜査の違法性」はもちろん必ず主張しなければならないポイントであるものの,それさえ言えれば当然に無罪が導かれるわけではなく,むしろ「その先」が重要なわけです。実際,最高裁平成29年3月15日判決でも,令状のないGPS捜査は「違法」であるとしましたが,それ以外の証拠だけでも有罪の証明は足りているとして「上告棄却」つまり有罪の結論は変わらないとしました。
 ですから,本件でも令状のないGPS捜査が違法であるとした後,どうすれば「無罪」の結論にいきつくのか,そのプロセスを丁寧に説明しているチームは説得的に響いたように思います。

 

3 事実の「裏にある意味」を考えること

 本大会では,予選から,「事実を指摘するだけでなく,それがどのような意味を持つのかについての『評価』を言語化することが大切だ」と繰り返し述べてきました。

 本選の本選でも,本件GPSのスペックに関する資料(証拠A)に,「バッテリーが400時間持続」と書かれていたのを表面的に目にしただけでスルーせずに,「それってどういうことなんだろう?」と考えて,本件GPS捜査を行った時間(時間に換算すると600時間を優に超えます)と比較して,「少なくとも1回は私有地に立ち入ってバッテリー交換をしている」という事実がわかり,「それって位置情報を取得するだけじゃない私的領域への侵入だよね」と主張していたチームがありました。これらは,資料を表面的に見ているだけでは思いつくものではなく,それぞれの事実がもつ意味をチーム内で検証していくことで初めて見えてくるものです。

 また,LINEの会話で「前に言ってたやつ,本当にやるん?」という発言は,検察側からは本件詐欺の実行日を打合わせているものだ,という解釈ができますが,弁護側からはそれと矛盾しない別の整合的な説明ができないかを考えてみる必要があります。そして,必ずしも詐欺について打合わせているとはいいきれない(他のイベントについても説明可能である)ことがわかれば,「そのLINEは証拠としては弱い(本件犯行を裏付けない)」という主張につなげることができました。

 このような,「表面的な事実を見たとき,その奥にある意味を考える」という思考は,そのような事実からどのような推認をしていくべきなのかを裁判官にアピールする上でも非常に重要ですし,それ以外にもいろんな場面で大切な考え方と思いますので,これからも意識してみてください。 

 

4 これからの課題として

 冒頭述べたように,本問が素材としている刑法,刑事訴訟法上の問題は,最新かつ未解決の問題が多く残されている分野ですから,「たった3日間ではとても時間が足りなかった」という感想を持った方が大半だったのではないかと思います。 このコメントが掲載される論文集では,参加された皆さんの「復習」の成果が詰まっていると思いますので,私もみなさんが大会終了後にどのようなことを考えたのか,楽しみに読ませてもらおうと思っています。

 また,今回大会では,必ずしも法律学分野を志望しているわけではない高校生も参加してくれていました。会式の講評でも述べましたが,今回のテーマは,刑事訴訟法上の捜査の違法性という論点にとどまることなく,さまざまな分野からの考察が可能かと思います。例えば,哲学者ミシェル・フーコーが提唱した「パノプティコン(監視社会)」と犯罪抑止という切り口(大屋雄裕『自由か,さもなくば幸福か』(筑摩選書)参照)や,科学技術の応用と倫理,という切り口が考えられます。

 われわれはジョージ・オーウェルの『1984年』のような「安全」なデストピア社会に向かうべきなのか,それとも犯罪の発生という「不便さ」を我慢してでも「国家からの自由」を保障する社会を目指すべきなのか,これからの時代を担う高校生の皆さんにとって,真剣に考え続けなければならない論点だと思います。

 

慶應義塾大学法科大学院 安齋航太
法律討論大会を振り返って

1 はじめに

(1)はじめに

  法律討論会で奮闘された高校生の皆さん、本当にお疲れ様でした。

  忙しい高校生生活の中で広くアンテナを張り、全く勉強したことのない分野であっても果敢にチャレンジする皆さんの姿勢には本当に感心しました。その積極的な姿勢は今後いま以上に重要な財産になります。そのままの姿勢で勉強を続けてほしいと思います。

 

(2)法律は“道具”(本大会の目的①)

  今回の大会では、皆さんに“法律問題を解く”ということを体験してもらいました。しかし、それは法律の知識を暗記してもらいたかったからではありません。これから幅広い分野で活躍する高校生の皆さんに、法律は“よくわからない怖いもの”ではなく、自分で使う“道具”だということを理解してもらいたかったのです。

  法律の勉強をしたことのない人の多くは、法律は“よくわからない怖いもの”であり、ただ自分のことを縛る嫌なものだといいます。

 しかし、入門講義でも強調した通り、法律は“ルール”です。そのため、法律の問題を考えるときは“ルール”(=規範)を示し、それがあてはまる状態か否かを考える(=あてはめ)という頭の使い方をします。この、法律が“ルール”であるということを正しく理解すると、法律はただ自分のことを縛るだけのものではなく、むしろ、自分たちが使う“道具”なのだ、という見方ができるはずです。

 たとえば、「この“ルール”によると君は◯◯をしなければならないのだから、◯◯してくれ!」というように、“ルール”は物事を自分に有利に進めるための武器になります。また、「いやいや、その“ルール”にはそんなことは書いてない!僕はそんなことしなくていい!」「この“ルール”によると、君はこんなことしちゃいけないって書いてあるじゃないか!今すぐやめてくれ!」というように、“ルール”を自分の身を理不尽なものから守る盾として使うこともできます。このように、“ルール”である法律は、自分で使うことができる“道具”としての面もあるということを理解してもらうことが、本大会の目的の一つでした。

 

(3)相手と議論をするということ(本大会の目的②)

  今回の大会では、ただ問題を解いてもらうのではなく、論旨を作成・発表し、さらに質疑応答を行うという法律討論会の型式を採用しました。これは、高校生の皆さんに“自分の意見を相手に伝え、これに対する相手の意見をしっかりと聞いて、噛み合った反論をする”という、きちんとした議論の練習をして貰うことを目的としていました。

  法学部に通っている人であっても、まず、“相手の意見をしっかりと聞いて、噛み合った反論をする”ということができている人はそう多くいません。まして、その場で自分の持論と矛盾しない、かつ相手の意見に噛み合った反論をするのは至難の技です。たとえばSNS等を見ていると、相手の話を全く理解しようとせず、とんちんかんな返答をして議論をしている気になっている人を多く見かけます。

  しかし、きちんとした議論をするスキルは、今後皆さんがどのような進路に進んでも必要になってくるものです。今回の経験を機に、きちんとした議論ができているか、相手の話を理解できているか、日々の生活の中で意識してみてください。(個人的には、「なんでこの人はこんなことを言っているのだろう?何か理由があるのではないか?」ということを一歩立ち止まって考えてみることが重要なのではないかと考えています。)

 

2 予選問題について

(1)はじめに

  先述の通り、今回の大会の目的は皆さんに法律の知識を暗記してもらうことではありませんが、興味がある人のために予選問題と本選問題について若干のコメントをしておきます。もっとも、法律の問題に“正解”はありませんから、これらはあくまで参考に過ぎないことに注意してください。

 

(2)予選問題のポイント

  予選問題は、法律的な考え方の基本である「規範定立→あてはめ」というものを体験してもらうことを目的に、詐欺未遂罪の検討をしてもらうものでした。

  (私は予選問題の出題・採点を担当していないので、本当に個人的な意見の域を出ませんが、)得点に差がつくポイントは大きく3つあったと考えられます。それは、①「規範定立→あてはめ」という段階を踏んで論じられているか、②あまり問題にならない要件も含めて全ての構成要件を満たすことを示せているか、③「欺」く行為にあたるか否かについて問題文中の具体的な事実を使ってしっかりとあてはめることができているか、という三点です。

「規範定立→あてはめ」ということが重要なのは、本紙でも繰り返し述べている通りです(①)。また、②の点が重要になるのは「刑罰は人の人権を侵害するものだから、その成否は慎重に検討しなければならず、全ての要件を逐一検討することが必要になる」という理由からでした。最後に③の点ですが、法律の規範に具体的な事実をあてはめるときは、ただ問題文の事実を抜き出すだけではなく、それを自分なりに“評価”することが必要です。刑法入門講義のレジュメに具体的な例が書いてあるので、今後法学部に進学する予定のある人など、興味がある人はチェックしてみてください。

 

3 本選問題について

(1)はじめに

  本選の問題は、(ⅰ)GPS捜査が違法であることを指摘し、さらに、(ⅱ)検察官側が提出した証拠は違法なGPS捜査と関連するものであり裁判で用いることは許されないという主張を組み立ててもらうものでした。

 

(2)本件のGPS捜査が制約する“重要な法的利益”は何か?(ⅰ)

  大変すばらしいことに、どのチームも「強制の処分とは、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等の重要な法的利益に制約を加える行為をいう」という規範を示した上で本件のGPS捜査がこれにあたるかどうかを検討するという、「規範定立→あてはめ」の流れを意識することができていました。

  もっとも、本件のGPS捜査がなぜ「強制の処分」にあたるのか?制約されている「重要な法的利益」とはどのようなものか?という点について、詳しく説明しているグループはあまり見られませんでした。

  入門講義中に口頭で説明した通り(私がレジュメにも書いておけばよかったのですが…)、一般の公道を歩いている姿を警察官が写真に撮る行為は「強制の処分」にはあたらず、一方で、自宅の中で休んでいる姿を望遠レンズ付きのカメラで写真に撮る行為は「強制の処分」にあたると考えられています。公道を歩いているときは、その姿を他人に見られても仕方がなく、歩いている本人も誰かに見られる可能性があることを承知でいるといえるため、その姿を写真に撮られてもプライバシー侵害の程度は小さく、「重要な法的利益」が制約されているとまではいえないと考えられているのです。逆に、家の中の姿を誰かに見られるとは思っていないのが普通ですから、家の中にいる姿を、普段見えない距離のものまで見えるような望遠レンズを用いて撮影することは、強度のプライバシー侵害にあたると考えられています。

  このように、ひとくちに「プライバシーの侵害」といっても、それが「重要な法的利益の制約」にあたるようなものなのかはわかりません。本件GPS捜査によって得られる情報により、いかにその人の他人に知られたくないような情報が丸裸になるのかということを、具体的に説明しなければなりません。

  もし、「位置情報なんて、“そのときどこにいたのか”という地点がわかるだけで、そこで何をしていたかはわからないじゃないか!こんなものが人に知られても、プライバシー侵害の程度が強いなんていえないよ!」と言われたら、皆さんはどのように反論するでしょうか。位置情報を“継続的に”集められたとき、最後にどのような情報が浮かび上がるでしょうか。改めて検討してみてください。

  なお、本選問題の添付資料にある検察官の論告では、本件GPS捜査を行う「高度の必要性」があったことを主張していますが、「強制の処分」にあたるか否かの検討では必要性を加味することはできないので注意してください(入門レジュメ参照)。

 

(3)GPS捜査の違法はどの証拠にどのくらいの影響を与えるのか?(ⅱ)

  さて、本件GPS捜査が「強制の処分」にあたり違法であるという結論を導くことができても、それだけでは被告人を弁護する上で何の意味もありません。

そもそも、なぜ捜査の違法を主張する意味があるのか。それは、検察官が「被告人は犯罪行為をした」ということを証明するために提出している証拠に対して「それは重大な違法のある捜査によって集められた証拠なので、裁判で用いることはできません(違法収集証拠排除法則)。他の証拠を持ってきてください。」というふうに文句をつけ、最終的には「え??他の証拠はこれしかないんですか??これだけだと、犯罪があった証明にはなりませんねぇ…。」という結論に持っていくためです(図1)。

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 もっとも、今回問題にしている捜査はGPS捜査です。GPS捜査は位置情報を集めるものですから、基本的には、GPS捜査によって集められた証拠は位置情報になります。そのため、検察官がGPS捜査によって集められた位置情報を証拠として提出していた場合は、単純に違法収集証拠排除法則を適用して、その位置情報を証拠として使えなくすることができます。しかし、本選の問題において、検察官は位置情報そのものを証拠として提出しているわけではありません。したがって、単純に違法収集証拠排除法則を適用しても、検察官側が提出した証拠を崩すことはできないことになります。

 そこで、「検察官が提出した証拠は、たしかにGPS捜査によって直接集められた証拠ではありません。しかし、重大な違法のあるGPS捜査という先行手続と密接に関連する証拠にあたるので、やはり裁判で証拠として用いることはできません。」という主張を組み立てることになります。

 どのような証拠が密接に関連する証拠にあたるのかは一概に言えるものではないため、入門レジュメに掲載した大阪地裁H27年6月5日決定(LEX/DB25540308)を参考にしつつ、本選問題の添付資料にある検察官の論告の「仮にGPS捜査を行わなかったとしても,甲をV宅前の現場で逮捕して,取り調べを行えば,いずれ乙との共謀は明らかとなり,乙の所在も早晩判明したいたと考えられる。」という主張を念頭において、「いやいや、この証拠はGPS捜査があったからこそ得られた証拠なんだ!」という反論を捻り出して貰いたいところでした。本選の論旨では“どの証拠が”“なぜ”密接に関連する証拠にあたるのかという点を具体的に検討できているグループはほとんどなかったので、改めて検討してみてください。

 ちなみに、この点についてはロースクール生のチューター3名もかなり頭を悩ませたところです。「スマートフォンの画面の写真は、GPS捜査でアジトを特定したからこそその場にいた甲を逮捕できたものであり、密接に関連する証拠とみてよさそう…?」「じゃあ、そうして逮捕された甲の供述調書は…?でも逮捕されてからは自分で任意に喋っているしなぁ…」「そもそも、検察官が甲はGPS捜査をしなくても逮捕できたっていってるけど、どうする?スマホなら常に持ち歩いてそうだから、他のところで逮捕しても押収できたんじゃない?」「うーん、たとえば、甲が乙のことをペラペラ喋ったのは、甲が乙と一緒に逮捕されたからであり、甲が一人で逮捕されていたらそのようなことは言わなかった、とかは言えそう…?苦しいかな…?」等々。

 弁護人としての立場から論じることが指定されており、なんとかして乙に有利な結論を導かなければならない問題となっている点が、とても悩ましい問題でした。

 

4 おわりに

  ついつい色々と書いてしまいましたが、何度も言うように、今回の大会の目的は法律の知識を暗記してもらうことではありません。法律を使うということがどのようなものなのか、少しでもわかって頂けたなら、それで十分です。

  短い間でしたが、皆さんと一緒に法律の問題を考えるのは私にとってもとても楽しい時間でした。ご参加頂きまして、本当にありがとうございました。

  これからも、お互い頑張りましょう。

 

東京大学法科大学院 清水美智代
第2回高校生法律討論大会 講評と感想

 この度は高校生大会に審査員として参加させて頂き、ありがとうございました。高校生の皆さん、3日間にわたってお疲れ様でした。皆さん法律や判例に触れるのは初めて、ましてや刑事訴訟法なんて中身も見たことないという人も多いでしょうに、資料を参考にしつつ判例を見つつ理解を進めていく姿は、圧倒されるものもありました。全チーム役割分担もかなり上手にやっておりましたし、アドバイザーなど不要なのでは、と感じた場面も多くありました。
 一方で、論旨を作成する中で、少々気がかりなこともありました。大会後の講評会でも皆さんにお話ししましたが、大会中、若干質疑応答がかみ合っていなさそうだなぁと感じることが何度かあったことに関してです。質疑応答がかみ合わない原因は、主に①質問者が立論の内容をよく理解せずに質問している、②質問者の質問の仕方が悪い、③立論者が質問をよく理解せずに回答している、④立論者の回答の仕方が悪い、と言う点に集約できるかと思います。以下では①③と②④に分けて見ていきます。
 まず①③について、討論大会でより良い討論をするには、まずは話し手の言っていることを適切に理解する必要があります。(1)何の論点(問題点)についての話か、(2)その問題点についてどのような考え方を有しているのか、(3)背景にどのような事情があってそのような考え方をしているのか、等々、段階を分けて意識的に考えると分かりやすいやもしれません。逆に、論旨を書くときは、これらが分かりやすく聞き手に伝わるように工夫しなければならないでしょう。もっとも、このような理解度の高低は、皆さんがどれだけ論題についてお勉強出来たかによる部分もあります。今回の問題は大変難しいものでしたから、この点について気にする必要は全くありません。
 話し手の言うことが大体こんな感じかしらと分かってきたら、今度は②と④、すなわち、質問の聞き方話し方も問題になります。例えば、「私は〇〇と考えますが、論者さんはどう思いますか?」という質問をしたとしましょう。質問の内容自体は良いのですが、この聞き方では、質問された論者は「はぁそのような考え方もありますね、でも私その考え方取ってないので…」となって終わってしまう可能性もあります。これではより良い活発な討論につながりません。例えば上の質問を、「あなたの考え方は××という考え方ですね、そうだとすると、△という問題が生じてしまいます。この△という問題が生じないよう〇〇という考え方をとるべきではないでしょうか?」と変えてみるとどうでしょう。このようにすれば立論者も「たしかに△という問題は生じるけれども、〜という理由で××が良いと思う」と返せそうですね。このように質問の仕方を変えることで、立論者からより良い義論を引き出せることにつながり、質問者は質問点アップ、立論者も立論点(質疑応答点)アップ、要はWIN-WINの関係になるわけです。ここでの質疑応答例は、××という考え方と〇〇という考え方の対立ポイント(なぜその考え方が別れているのか、その背景は何か)を把握する必要がありますので、ここでもやはり話し手の主張を適切に理解することが重要になります。
 以上色々書きましたが、あくまで一例ですし、質疑応答の仕方は人それぞれ工夫の仕方がありますので、参考程度に見て頂けると嬉しいです。より良い議論が出来るかどうかは、今後皆さんがどのような道に進むにせよ関わってくることでしょうから、是非自分なりの議論の仕方というのを意識的に身につけていってください。
 今回大会を通して、私もたくさんのことを学ばせて頂きました。特に、現役高校生の皆さんと色々なお話をする中で、皆さんがそれぞれ色々な考えや問題意識をもっていること、その問題解決のため実際に行動に移していることを知ることが出来たのは、高校生大会に来てよかったと思えた最たるものです。皆さんには是非、大学生になっても社会人になっても、そのエネルギッシュな心と行動力を持ち続けて欲しいです。それでは、皆さんとまたどこかでお会いできることを楽しみにしております。

慶應義塾大学法科大学院 柳川夢太郎
第二回全国高校生法律討論大会(2019年春)大会講評

 

1.はじめに

 第2回全国高校生法律討論大会の参加者の皆さん、お疲れ様でした。

 去年に引き続き非常に難しい論題であったと思います。刑法・刑事訴訟法の基礎知識だけでなく、刑訴法の最新判例、刑事実務の知識まで必要となる今回の論題に対して、ゼロから知識を吸収し、判例の「読み方」を模索し、挑戦していく皆さんの姿に感心しました。

2.今回の問題に関して

 (1)今回の問題を正確に検討するには、刑訴法の最新判例や刑事実務の知識まで必要です。審査員としては、高校生の大会なので、論理的整合性をもって自由に立論を展開してもらえれば十分であり、主に論理力が評価の対象になるかと思っていました。しかし、3日間の開催期日の中で、参加者の皆さんが六法、基本書、判例に食らいついてくれた結果、法律の討論会として十分な議論が行われ、想定よりもハイレベルな中での採点をすることができました。

 (2)法律討論会では、①どの条文の問題として論じるのかを特定し、②その条文の下にはどのような解釈がありえるのか確認し、③②での解釈を採用した理由を明示し、④問題文の具体的事情を(できれば他説との違いを意識して)拾い上げ、⑤自分が立てた規範に対して論理的整合性を持ってあてはめができているか、という5つの点が大前提になります。もっとも、この大前提を守るのは非常に難易度が高いです。なぜなら、急ごしらえでインプットした知識は、理解も浅く、使い慣れておらず、文章化するうちに論理的整合性が崩れていくからです。ゆえに、これらの大前提を守るだけでも評価の対象となり、今回もそれができていたチームは高印象でした。

 (3) 判例の読み方については皆さん苦戦していましたね。判例というのは、批判や揚げ足取り、誤った解釈をされないように徹底的に意識して書かれていますから、まあ分かりにくい文章になっています。案の定、議論の最初の頃は、誤った方向での解釈も散見されました。しかし、2日目の終わりには、概ね噛み合った議論がなされていたと思います。


3.感想

 (1)「大学での学問は高校までの学習と違って答えが用意されていない」という話をよく聞くと思います。
 法律に限らず大学で専門的なことを学び始めると、色んな学者が色んな対立する説を唱えています。そこで周りの多数派の人間と違う書き方、考え方を採用することが「間違い」だと思ってしまうことは必ず学修の視野を狭めます。
 高校生の皆さんには今後も萎縮することなく色んな問題に挑んでいただきたいです。

 (2)大会直後の感想でも言いましたが、今回の大会を通して法律が嫌いになってしまった方もいるかもしれません。それはそれで、今回の大会を通して法律というものを感じてもらい、今後の大学の学部選び等、進路選択に役立てて欲しいと思います。今回の大会を通じて法律討論大会が大好きになってしまった方がいたら、いつかどこかでお会いできる日を楽しみにしています。

 (3)法律討論大会で必要とされる、未知の問題に対してゼロから資料を収集する力、他人の意見を理解し、尊重し、自分の中へ落とし込む力、全体から論理的矛盾を抽出する力等は、法律以外のどんな道に進むとしても役に立つものです。参加者の皆さんがどのような道に進まれるとしても、本大会の経験が生きることを祈っています。

 (4)最後に、本大会の審査員・実行委員の皆さん、参加してくれた高校生の皆さんに改めて感謝申し上げます。